「乙字湯」(おつじとう)は、痔のために作られたといわれる方剤です。

痔に対して使われる漢方薬には何があるか?と問われれば

乙字湯、桂枝茯苓丸、補中益気湯などいくつか挙がります。

でも逆に、「乙字湯」は何に使うのか?と問われれば、高い確率でまず「痔」と答えると思います。

痔といっても、様々な痔があると思いますが、

「乙字湯」はさまざまな(比較的軽度な)痔に広く使われています。

 

乙字湯の構成生薬は、

当帰・柴胡・黄芩・甘草・升麻・大黄です。

 

便秘がちな人向きの漢方薬?

乙字湯が、便秘気味の人に適するとされているのは、

大黄と甘草が配合されているからです。つまり「大黄甘草湯」の要素があります。

だから、乙字湯の注意点として、

副作用で下痢をすることがある、と言われます。

しかしながら大黄は、大黄剤(瀉下剤)という程は配合されておらず、

大黄甘草湯に比べると、大黄の量は1/4程度です。

便秘の人にしか使えないというわけではありません。

ただし虚弱な方は、下痢をする場合もあるかもしれないので一応、念のため注意してください。

 

乙字湯は柴胡剤?

構成生薬をみて、柴胡と黄芩の組み合わせに注目すれば、柴胡剤であります。

 

乙字湯の原典では本来、当帰は配合されておらず、

代わりに大棗・生姜が使われています。

つまり、もともとは、柴胡・黄芩・甘草・升麻・大黄・大棗・生姜ということですが、

この構成は、下線部の部分に限れば、柴胡剤である「大柴胡湯」(だいさいことう)と共通の生薬になります。

 

「大柴胡湯」といえば、炎症の疾患に対してよく使われます。

柴胡剤の中でも、体力のある実証の人向きとして用いられる方剤です。

冷やす作用(熱や炎症を冷ます)の生薬中心に構成されています。

 

乙字湯のポイントは当帰

現在使われている「乙字湯」は、上でも書きましたが、当帰が加えられているものが使われています。

しかも当帰の配合量がもっとも多くなっています。

当帰が多いというのが、この方剤のポイントです。

 

まず、当帰は温性の生薬です。

これによって、「大柴胡湯」などにくらべると、寒熱のバランスがとれて、

体質にかかわらず、一般的に使いやすい処方に整えられたことになります。

しかも、

痔というのは、毛細血管の血液の停滞、血行障害があって腫れたりするわけで、

血流改善の効果のある当帰は、利にかなっています。

さらに、

当帰は、腸を潤します。

大黄との配合によって、排便時にいきむ、ということの回避にもつながります。

 

甘草の量も大事

炎症を抑えるためには、抗炎症作用をもつ甘草の量が多い方がいいと言われています。

甘草が多くなければ乙字湯は効かないと言われることもあります。

そのため、甘草の量を増やすために

例えば、「芍薬甘草湯」や「麻杏甘石湯」などを頓服で上乗せして処方されたりすることがあるかもしれません。

その場合は、もちろん甘草の過剰による副作用に注意が必要です。

 

 

乙字湯の名前の由来

問題です。

「痔に使われる乙字湯(おつじとう)。乙は、甲・乙・丙の乙であり、乙字湯があるならば甲字湯や丙字湯もある。〇か×か」

 

正解は

「〇」です。

 

乙字湯は、日本で作られた処方です。

江戸時代、戦に出る武士のために考えられたと言われており、

使用頻度の高いものから順に、甲・乙・丙・丁と付けられているそうです。

武士は、馬に乗ったり、お尻に力をいれたり、肛門を締め付けることが多かったのかもしれません。

 

ちなみに、「乙字湯」よりも順位の上の「甲字湯」ですが、

処方内容としては、「桂枝茯苓丸」(けいしぶくりょうがん)に生姜・甘草が加わったものに相当します。

戦の打撲、打ち身、内出血などに重宝されていたようです。

 

痔に使われるその他の漢方薬

乙字湯の他に痔に使わる代表的なもので、桂枝茯苓丸、補中益気湯について簡単に・・・

桂枝茯苓丸は、駆瘀血作用です。血液がうっ滞している痔核、いわゆるイボ痔によく使われます。

補中益気湯は、乙字湯と共通である柴胡・升麻の昇提(しょうてい)の作用と、補気効果を期待して、脱肛によく使われます。

 

乙字湯が3番の謎

余談です。

エキス製剤の製品番号は

1番が葛根湯
2番が葛根湯加川芎辛夷

そして3番にいきなり乙字湯がきます。

この番号は、漢方メーカーの研究者が独自に割り当てていた番号なので、明確な決まり事や法則があるわけではないし、今となってはその順番にどのくらい意味があったのか不明な点も多いのですが、

一番有名な漢方薬である葛根湯が1番、

そしてその加味方である葛根湯加川芎辛夷が2番なのは納得できるのに、

なぜ3番を乙字湯にしたのか、

そんなに乙字湯が大事な漢方薬だったのか、

ということで、

その研究者はもしかしたら痔だったのかもしれない、と噂されています。

以前は4番に(桂枝加芍薬湯より先に)桂枝加芍薬大黄湯があったり(今は134番)、

8番に(小柴胡湯より先に)大柴胡湯がきてあったりもするので、

やはり便秘気味の人だったのかもしれない、とも。

 

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