大建中湯は便秘の薬?イレウスの薬?

大建中湯は、医療用の漢方薬の中で、使用量が多い漢方薬として知られています。

特に外科領域において、開腹手術後の腸管癒着や腸閉塞(イレウス)の予防または治療に、非常によく用いられています。

その他、色々な場面で使われているのだと思いますが、

「便秘の薬」として多用されている感じがするのが少し気になります。

腸を直接刺激する大黄(ダイオウ)が含まれない、とか

お腹を温めてくれる漢方薬である、などと紹介されて

慢性便秘に穏やかに効きそうだというイメージがあるかもしれませんが

本当にそうなのでしょうか?

基本的な作用を確認しておきましょう。

 

お腹の冷えと腹痛

胃腸の弱い人は、体を温める機能が低下しやすく、冷えに弱くなります。

また、胃腸がそれほど弱くなくても、寒い環境で過ごしたり、冷たいもの摂りすぎたりすれば、お腹が冷えます。

寒い時にからだがブルブルっと震えだすのと同じように、

お腹が急激に冷やされると、消化管がムクムクと動き出したり、けいれんを起こしたりすることがあります。

それによって激しい腹痛や嘔吐が生じることもあります。

そんな時に用いられるのが「大建中湯」です。

腸に冷たい刺激があったときに起こる急性の腹痛を緩和させることができる漢方薬です。

 

まず原典を確認

大建中湯は、3世紀の『金匱要略』に書かれている漢方薬です。

その金匱要略には、

「心胸中大いに寒痛し,嘔して飲食すること能はず,腹中寒(こご)え,上衝して皮に起り出で見れ,頭足上下に有り,痛みて触れ近くべからざるは,大建中湯之を主る」として登場します。

解釈をつけると、

(心胸中大いに寒痛し)
胸部・腹部、広い範囲が大変冷えきって、痛み、
(嘔して飲食すること能はず)
吐き気がして食べたり飲んだりすることができない。
(腹中寒え,上衝して)
腹中がこごえるように冷え、蠕動運動が異常となって
(皮に起り出で見れ)
腸がムクムクと動くのが、張ったお腹の皮を通して見ることができて、
(頭足上下に有り)
それが頭や足のある生き物が上下にうごめいているようにあり、
(痛みて触れ近くべからざる)
痛みで転げまわっていて近づけず、触ったり擦ったりしてあげることもできない。
(大建中湯之を主る)
これを大建中湯が治す

ということで、

原典を見る限り、とても猛烈な症状に使用する漢方薬のようで、

ただの便秘症に軽々と使っていいのか?という気になりますね。

ちなみに、金匱要略のその続きには、

大建中湯を服用したあとは、お粥を飲ませなさい、

これを服用する日はお粥を食べて温かくして休んでいなさい、というようなことも書かれています。

 

 

大建中湯の構成生薬と働き

「大建中湯」に使われている生薬は4つです。

  • 山椒(サンショウ)または蜀椒(ショクショウ)
  • 乾姜(カンキョウ)
  • 人参(ニンジン)
  • 膠飴(コウイ)

4つともお腹を温める性質を持ちます。

山椒乾姜は、辛味と刺激性があり、お腹の冷えを温める作用が強い生薬です。

消化管の血行を促進して、腸の蠕動運動を正常化させます。

人参膠飴も、消化器の働きを助けるとともに、鎮痛効果もあります。また、その甘味によって山椒や乾姜の刺激性が抑えられます。

4つの生薬の組み合わせにより、

腸管の動きが悪いときには促進的に作用し、

逆に蠕動の過剰な動きには抑制的に作用する、という漢方薬ならではの効果を示します。

これらの作用によって「大建中湯」は、お腹の強い冷えと、腸管の異常な運動による腹痛を緩和します。

 

便秘にも下痢にも大建中湯

消化器を温めて寒さを散らし、血液や水分の循環も良くなれば、その結果便通も整います。

便秘には下剤、下痢には止瀉薬、ではなくて、便秘も下痢もその原因がお腹が冷やすいことなのであれば、

「大建中湯」はどちらでも使えます。

過敏性腸症候群の冷えが強いタイプの人に使われることもあります。

 

腸閉塞(イレウス)に大建中湯

消化管への血行促進と、腸の運動の正常化という作用のところで、

上にも書きましたが、

外科領域では、開腹手術後の腸管癒着や腸閉塞(イレウス)の予防または治療に、「大建中湯」が非常によく用いられています。

確かに金匱要略の激しい症状は、腸閉塞の症状とも似ています。

術後で陽気が虚し、腸が冷えて動きが鈍くなったと考えれば、

蠕動運動の回復の目的で使用されるのも分かります。

そして、実際に使用して効果が認められています。

西洋薬に「大建中湯」ほど効果のある薬が見つかっていないこともあり、この場合はあまり証などは考慮せずに使用されているかもしれません。

 

その他

また腸に限らず、内臓平滑筋の痛みの緩和の効果に注目して、尿路結石や胆石の痛みに対して使われることもあります。

金匱要略に書かれている猛烈な腹部の痛みの正体は、当時は珍しくない寄生虫の回虫による腹痛だろう、という説もあります。

山椒には駆虫作用があるので、昔は回虫による腹痛にもよく使われていたらしいです。

(最近話題のアニサキスの症状にも効果があればいいなと思いますけど、どうなのでしょうか。)

 

大建中湯は1回の服用量が多い

「大建中湯」はエキス製剤の場合、1回の服用量が多い漢方薬です。

それは膠飴が配合されているからです。

膠飴とは、米から作られる水飴のようなものです。

それ以外の山椒・乾姜・人参は乾燥エキスですが、膠飴だけはその飴(アメ)を粉にしたものがそのまま含有されます。

よって膠飴の配合されている分量だけ、他の漢方薬に比べると服用量が多くなります。

ツムラ(医療用)とコタロー(医療用)で1日服用量に大きな差があるのは、膠飴の製法の違いがあるからだそうです。

服用量が多くて困る時は、お湯に溶かした方が服用しやすいかもしれません。辛味と甘みがあります。

※ついでに、ツムラとコタローで適応症が異なりますので念のためご注意を。便秘や下痢の効能が添付文書に記載されているのはコタローの方です。

 

一般用医薬品(市販薬)の大建中湯をお探しの方

市販薬には「大建中湯」はありません。

ただ、よく似たものとしては売られているようです。

【第3類医薬品】胃腸薬/ホノミ漢方 腹寒散 60包

これには膠飴が使われていません。

 

他の消化器系の漢方薬との併用

大建中湯は、もともと虚証向きの方剤ですが

お腹の冷えを温めることの方に重点が置かれている方剤なので、

胃腸の働きを助けるために、下痢の時はさらに「人参湯」(にんじんとう)を足したり

桂枝湯関連の「桂枝加芍薬湯」(けいしかしゃくやくとう)や「小建中湯」(しょうけんちゅうとう)と併用して使われることもあります。

大建中湯と小建中湯はともに膠飴が使われる、という以外に生薬の重複はなく、併用しやすい組み合わせで、

この二つを足して2で割ったものが、(どのくらい認知されているものなのか分かりませんが)「中建中湯」と呼ばれることがあります。

 

大建中湯の副作用

漢方薬だから効果は穏やかだと考えられがちですが、

冷えによる腹痛には、30分から1時間くらいで効果が表れることもあり、頓服でもよく効く場合があります。

 

基本的には「腹部の冷え」が前提として、陰虚・熱証には要注意です。

漫然と継続するのは避けましょう。

 

山椒は七味唐辛子にも入っているピリリと辛い香辛料です。

乾姜(ショウガ)も多めに配合されています。

膠飴によって多少マイルドになるのかもしれませんが、

胃の弱くて荒れやすい方が、

空腹時に辛いスパイスを摂り続けるとどうなるか・・・

消化管の粘膜への刺激が強すぎると、やはり下痢を起こしますので注意してください。

 

それから、肝機能異常が起こることが、他の漢方薬に比べてやや多いようなので、注意が必要とされています。

肝機能が低下している人はもちろんですし、

そうでない人でも長期間服用される場合は定期的に採血で肝臓のチェックをされることをお勧めします。

 

こちらも参照下さい→「大建中湯」と併用注意となる糖尿病治療薬があります。

 

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