漢方薬を服用するのはいつがいいのか?

漢方薬は一般的に食前(空腹時)の服用が良いと言われますが、

その理由に対しては、いくつかの疑問があります。

実際に食前と食後に飲み分けてみて、効果に違いを実感している人もおられるかもしれないので

ここでは私個人の理解として頭の中を整理するために書いてみます。整理する都度、加筆を加えますが、

漢方薬は食前(空腹時)が良いとする理由に対する疑問点について、まとめておきます。

 

Q&Aを、一般向けの漢方薬の本でみたり、ネットで検索したりしてみると、

漢方薬はいつ服用するのがいいか?という質問に対する回答として

「基本は食前または食間が良い、しかし飲み忘れた時は食後でも可」

というものが多かったです。というかほとんどでした。

そして、食後ではなくて、空腹時に服用した方がいい理由に関しては、

「空腹時の方が漢方薬の吸収が良い」

それと

「漢方薬に含まれるアルカロイドによる副作用を回避できる」

というものが多いようです。

 

これらの回答に対してどのくらいの方が納得されているのでしょう?

 

 

食前の方が漢方薬の「吸収が良い」という説明について

まず「吸収が良い」という言葉だけでは、2通りの意味がとれます。

一つは「吸収される率が高い」ということ
もう一つは「吸収されるスピードが速い」ということ

例えば血糖値を気にされている方は「ご飯より先に野菜を食べた方がいい」と聞いたことがあるかもしれません。
胃に野菜があることで、炭水化物の消化吸収に時間がかかり、血糖値の上昇が穏やかになるためです。
同じように食後に漢方薬を服用すると、吸収される順番は食べ物と漢方薬との競争になるので、漢方薬の吸収のスピードが穏やかになる、ということです。

この時、食べる順番は、吸収されるスピードが速やかか穏やかかに影響するものであって、吸収率の問題とは別です。
デザートを食前じゃなくて食後に食べたからといって、デザートの摂取カロリーが抑えられるわけではないように、
漢方薬の吸収の速度が穏やかだからというだけで、漢方薬の効き目が弱まるということは言えません。

そして、

もし速やかに吸収させて早く効かせたい状況であるのならば、食前ではなくて、頓服にすべきです。
葛根湯は、ゾクッと寒気がしたときに服用すれば良いのであり、わざわざ食事のタイミングに合わせる必要はありません。

 

漢方薬の吸収に腸内細菌が関わっているからという理由について

簡単に書きますと、
漢方薬の成分の中に、配糖体といわれる形のものがあります。
この成分はそのままでは吸収されづらいものです。
ですが腸内細菌がこの配糖体を分解して、吸収しやすい形に変えているのです。
食後だと、食べ物がこの腸内細菌による配糖体の分解過程をジャマをしてしまう、ということです。

しかしながら、

この説明は、配糖体の吸収過程のひとつとして腸内細菌も関与している部分がある、というだけのことです。
腸内細菌が配糖体を分解するのが事実だとしても、配糖体にも様々ありますし、その様々ある吸収経路の中のひとつです。
配糖体の吸収のすべてを腸内細菌ばかりに頼っていると言っているわけではありません。

よって食事が腸内細菌の働きに影響するからといって、漢方薬の効果が弱くなるという十分な理由にはなりません。

また漢方薬というのは、多くの成分が関与して総合的に効いているものだと考えれば、
ある特定の成分だけの吸収の話をしても、それが漢方薬としての効果にどのように影響するのか、説明は困難です。

 

アルカロイドによる副作用を回避できるという説明について

確かに植物に含まれるアルカロイドは毒性が高いものがあります。
モルヒネ、コカイン、トリカブトのアコニチン等と書けば危険な感じがします。
しかし、そのような毒性があって危険な成分が漢方薬に混入していれば、それ自体がまず大問題になっています。
なのでここでは、麻黄のエフェドリンや、附子のアコニチンのことを指しているのだと考えます。
食後で、胃内pHが高い方がアルカロイドは吸収されやすくなります。
だから逆に空腹時の方が副作用の発現を抑えられる、とのこと

そこで疑問に思うのは、

エフェドリンやアコニチンの副作用が出ては困るような人が
副作用を起こすかもしれないような分量の、麻黄や附子が配合された漢方薬を服用していいのだろうか。
食前とか食後とかいう前に、麻黄や附子が適さない人には、麻黄や附子はなるべく使うべきではなく、
「食後だと副作用のおそれがあるけれど、食前だったら安全です」という保証はできません。

 

それから、胃内pHが影響するという話をし始めると、
年齢などで胃酸の量が変わるのでそもそものpHは?
胃薬として制酸薬を服用する場合には?
そして、牡蛎のように胃酸を中和する作用のある生薬が配合されてる漢方薬を併用する場合には?
なども考えていかなければいけないのでしょうか。

 

西洋薬はなぜ食後が多いのか?

西洋薬は、作用が強いから胃を荒らす(→だから食後が良い)
漢方薬は、穏やかに作用するものだから胃にも優しい(→だから空腹時でも可)

というのは、薬に対しての全く勝手なイメージです。
胃に障るかどうかは西洋薬か漢方薬かで判断できるものではありません。

西洋医学の薬に関していえば、
単成分なので非常に分かりやすく、食事による影響(血中濃度)がきちんと調べられていて、
食事の影響を受けて吸収が落ちるものもあれば、逆に食後の方が吸収が良いものもあるし、また食事の影響は考慮しなくてもいい薬も多い。
例えば降圧剤や高脂血症の薬は、1日1回いつ飲んでもいい薬がほとんどなのに、病院で処方される場合は、食後(特に朝食後)の指示がほとんど。
さらに空腹時に比べ食後の方が吸収率が低下しているデータが出ているのに、食後で処方されている薬だってあります。
その場合の食後の理由は、食後に服用する習慣を作って飲み忘れを少なくすることが大きな目的だと考えられます。
飲み忘れることがあるかもしれないということを考慮して、西洋薬が基本食後にしているように、
漢方薬もそれにならって、「飲み忘れたら食後でも可」とするよりも、「基本食後」にしてしまった方が簡単です。

また、漢方薬も空腹時に服用すると胃もたれを起こす場合があって、そのときは食後の方が服用を継続してもらいやすいですし、

それから、

食欲がないから漢方薬を試したいという人や、吐き気がして食べられないから漢方薬を飲むという人には、食前や食後の説明はほとんど意味を持たず、ご自身が服用できそうだと思ったときに、服用できそうな量を、少しずつ服用すればいいでしょう。

 

生薬は食べ物に近いものなので食事の影響を受けやすいという説明について

漢方薬の成分が食べ物の成分と混ざると、漢方薬の成分のバランスが崩れて本来の効果が出ない、と書かれていることがあります。
しかし、具体的な例を書いているものは見つかりません。
もしかしたらそういうことがあるかもしれないので心配されるのだったら念のために食後は避けておいた方がいいのかもしれないですね、くらいの意味でしかありません。
どのような食事でどのようにバランスが崩れて、どの程度効果が弱くなるのか、見当をつけることもできません。

だからこそ、「飲み忘れた時は食後でも可」と言えるのでしょう。

 

西洋薬と漢方薬との相互作用の可能性

知られている相互作用は限られていますが、

抗菌薬で、
例えばテトラサイクリン系やニューキノロン系のものは、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、鉄などを含有する製剤と併用注意となっているのもがあります。
抗菌薬とこれらが結合してしまい、吸収されづらくなり、抗菌薬の方の効果が減弱するおそれがあるからです。
石膏、竜骨、牡蛎などはカルシウムを含みますので、
そういう抗菌薬を服用するときに限って、そういう生薬が配合される漢方薬については、1~2時間の間隔をおいて服用する等の注意が必要と思われます。

その他の、西洋薬と漢方薬の相互作用があるとすれば、
胃の中で起こる問題ではなくて、多くは効能そのものの問題なので
時間をずらせば回避できるというものではありません。

 

しかしながら保険上は食前または食間が基本です。

なぜかというと
病院で処方される保険適用されている漢方薬が、
食前または食間の用法でしか承認されていないからです。
保険のルール上、そう処方しなければいけなくなっているのです。
薬局で漢方薬の食後指示を見逃しておくと、処方監査ができていないと見なされて、厚生局から注意や指導を受けてしまうことがあります。
保険上のルールはルールとして守らなければいけませんので、
実際にどのように服用すれば良いかの問題は別にして、
形式上は、食前または食間で処理する必要があります。

 

さいごに

同業者なら分かって頂けると思いますが、例えば

睡眠薬はいつくらいに服用するのがいいですか?
糖尿病の薬はご飯を食べられなかった時でも服用してもいいですか?
血液サラサラの薬、朝に飲み忘れていたので今から飲んでいいですか?

それぞれの場合で、何という名前の薬なのか、どういう状況なのかをしっかり確認して、それによって個別の対応をすると思います。

西洋薬だから基本食後で・・・、などと説明しないのと同じように、

漢方薬の場合だって、「漢方薬なので基本食前です」ではなくて、

あなたのこの症状に対して処方されているこの漢方薬の場合、こういう飲み方が良いですよ、という回答があるはずです。

症状や、処方されている漢方薬の内容、併用薬、その人の生活のリズムに応じて
飲み方は臨機応変に考えて、個別に対応して良いのです。

 

あと、
真剣に漢方薬で症状を改善させたいという思いで服用している人は、
食前でも食後でも漢方薬をしっかり指示された通り服用されるし、生活習慣を改善する努力もされています。
もし頻繁に飲み忘れていて、体調に大した変化がないのであれば、
「飲み忘れた時は食後でも可」というより「飲み忘れるくらいなら飲まなくても可」という判断も必要です。
(その方が医療費の節約になります。)
しばらく服用を続けなければ効果を判断できないということもありますが、
効いているのかどうか分からないまま漫然と処方が続けられている例もあります。
食前か食後でどちらが効果的かという問題よりも、薬が合っているのかどうかの方が大事な問題です。

 

まとめますと

医療用の漢方薬は、保険の関係上、食前や食間の指示で処方されるのが一般的です。
では、実際に漢方薬はいつ服用するのがいいですか?という質問に対してここで回答するとすれば、
「それは状況によります。」

 

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