大黄牡丹皮湯(だいおうぼたんぴとう):DBT

大黄牡丹湯とも言います。

一昔前までは、虫垂炎(いわゆる盲腸)などは、切らずにこの漢方薬で治していたという話が有名ですが、

近年は基本的に抗生物質が用いられますので、大黄牡丹皮湯の虫垂炎での出番は明らかに減っています。

分類としては、桂枝茯苓丸桃核承気湯と並ぶ、駆瘀血剤の代表的な漢方薬です。

医療用エキス製剤としては、コタロー・ツムラ・テイコクがあります。(33番)

 

 

大黄牡丹皮湯の出典

『金匱要略』(3世紀)です。

当然ながら金匱要略には「効能効果:虫垂炎」みたいに書いているわけではありません。

「腸癰の者は少腹腫痞し、之を按ずれば即ち痛み、淋の如しくも、小便自ら調い、時時発熱し、自汗出でて、復た悪寒す。其の脉遅緊なる者、膿未だ成さず、之を下すべし、当に血有るべし。脉洪数なる者、膿已に成す、下すべからざる也。大黄牡丹皮湯之を主る」

と書いているので、これをざっくりと訳してみると、

「腸に炎症があれば、下腹部が詰まった感じに腫れて、これを押さえると痛みます。泌尿器系の病気も疑わしく思う痛みだけど、尿の出は正常です。ときに発熱と汗がみられるけど繰り返し悪寒するので、カゼによる発熱でもないようです。

このような症状を大黄牡丹皮湯で治療できます。

ただし、症状の初期で膿瘍が形成されていないときは大黄牡丹皮湯で下していいけれど、すでに膿瘍が形成されているときに用いると、下痢や下血のおそれがあるから注意して」

という感じでしょうか。

そして、この大黄牡丹皮湯が主るという症状を、今で言う「虫垂炎」と考えるのが一番妥当だろうということです。

大黄牡丹皮湯を構成する生薬

  • 牡丹皮(ボタンピ)
  • 桃仁(トウニン)
  • 大黄(ダイオウ)
  • 芒硝(ボウショウ)または硫酸ナトリウム
  • 冬瓜子(トウガシ)

冬瓜子(トウガシ)と冬瓜(とうがん)について

冬瓜子が配合される漢方薬は数少ないのでここで補足しておきます。

保険適応の漢方薬では、大黄牡丹皮湯と、下に書きます腸癰湯(ちょうようとう)くらいにしか使われていません。

が、大黄牡丹皮湯において、最も配合量が多い生薬は、大黄でも牡丹皮でもなく、この冬瓜子です。

割合的には全体の1/3が冬瓜子なので、大黄牡丹皮湯の中の最も重要な生薬です。

冬瓜子とは、ウリ科の冬瓜(とうがん)の種子のことです。冬瓜仁(トウガニン)とも言います。

清熱化痰・排膿の効能があるので、化膿性疾患に用いることができます。

なお、一般的に(煮物とか漬物とかにして)食するのは瓜の実の部分です。

カリウムが多く含まれていて利尿作用があるから浮腫(むくみ)に良い、

食物繊維が豊富だから便秘に良い、

しかもカロリーが少ないからダイエットにも良い、

そんなヘルシー食材のイメージです。

冬瓜の名前の由来に関しては、冬まで保存ができて冬に食べることができるから、と言われているようですが、

ここで大事になることは「冬の瓜」と書くけれども、実は旬は「夏」だということです。

ウリ科のものでは、西瓜(スイカ)や胡瓜(きゅうり)、苦瓜(ゴーヤ)と同じく夏の野菜。

ということで、夏野菜の特徴である「体を冷やす作用」に気を付ける必要があります。

冷え症の人は摂りすぎないようにしてください。

冬瓜子の性質も、寒性です。

大黄牡丹皮湯の効能・適応症状

月経痛、月経不順、月経困難、更年期障害

便秘、常習便秘、痔

虫垂炎、その他、腸や肛門の炎症性疾患、または泌尿器系の炎症、前立腺肥大

湿疹、蕁麻疹、にきび、アトピー性皮膚炎

感染性下痢(腸熱)

  • 保険適応外の症状を含みます。
  • 上記の症状に応用が可能という意味であり、すべての症状が大黄牡丹皮湯で治せる、ということではありません。

大黄牡丹皮湯と、桂枝茯苓丸、桃核承気湯との違い

桂枝茯苓丸桃核承気湯・大黄牡丹皮湯。

構成生薬が非常によく似ている駆瘀血剤の3つをここで整理しておきます。

整理しておけば、おおまかな違いは理解できるかと思います。

牡丹皮 桃仁 大黄 芒硝 桂枝 茯苓 芍薬 甘草 冬瓜子
桂枝茯苓丸
桃核承気湯
大黄牡丹湯

いずれも駆瘀血作用のある生薬が主に使われていますが、

まず、

下痢をしてしまう場合には、大黄・芒硝が入っていない桂枝茯苓丸が適していて、

逆に、便秘傾向が強い場合は、大黄・芒硝が入っている桃核承気湯や大黄牡丹皮の方が適します。

他の漢方薬と併用するときに甘草の重複が問題になるのは桃核承気湯だけです。

そして、

大黄牡丹皮湯が、桂枝茯苓丸や桃核承気湯と異なる点はというと

要するに、桂枝茯苓丸と桃核承気湯には含まれていて、大黄牡丹皮湯には含まれていない生薬を探してみると、それは「桂枝」(または桂皮)ということになりますので、

いずれも瘀血による月経痛に用いることはできても、

気を巡らせる桂枝が含まれていない大黄牡丹皮湯に関しては、月経不順に伴うイライラなど精神神経症状に対する作用が弱くなってしまいます。

しかし、大黄牡丹皮には、牡丹皮に冬瓜子も配合されているので、清熱・消炎・排膿の効果には優れています。

大黄牡丹皮湯と腸癰湯(ちょうようとう)

『金匱要略』などにある腸癰(ちょうよう)というのは、腸の炎症や、腸にできた膿のことです。

大黄牡丹皮湯と同じように、腸癰に用いられる漢方薬が他にもありまして、その名もずばり腸癰湯(ちょうようとう)です。

7世紀『備急千金要方』の方剤です。

あまり馴染みがないかもしれないですが、医療用エキス製剤にもコタローのものがあります。

やはり腸癰湯という名前のとおり、大黄牡丹皮湯に比べて腸癰湯の方が、もっと腸癰の専門の薬です。

腸癰湯の構成生薬は、

牡丹皮・桃仁・冬瓜子・薏苡仁(ヨクイニン)の4つ。

大黄牡丹皮湯から、大黄・芒硝を抜いて、薏苡仁を加えたものに相当します。

腸癰湯=大黄牡丹皮湯-(大黄・芒硝)+薏苡仁

『金匱要略』にも、膿が形成されているときは下すべからざる、と注意されていたように、大黄・芒硝は予め除いておいて、一方で薏苡仁を加えて排膿作用を強化した構成になっています。

つまり大黄牡丹皮よりも腸癰湯の方が、腸癰全般に使いやすくなっているというわけです。

または、たんに下痢などが心配で大黄牡丹皮湯が使いにくいときに、その代わりとして用いることができます。

さらに腸癰湯の構成内容は

「桂枝茯苓丸加薏苡仁」から、桂枝・茯苓・芍薬を除いて冬瓜子を加えたもの、ということもできます。

腸癰湯=桂枝茯苓丸加薏苡仁-(桂枝・茯苓・芍薬)+冬瓜子

桂枝茯苓丸加薏苡仁から、桂枝・茯苓のような精神安定に対する作用を省いてしまって、冬瓜子によって排膿作用を強化した形です。

下腹部の瘀血と、下腹部に熱がこもるために生じる炎症や膿、それによる下腹部痛や月経痛に対応します。

腸癰=虫垂炎と考えてしまうと、腸癰湯=虫垂炎の薬となってしまい、

抗生物質のある現在では、腸癰湯の使用機会がないように思われてしまいますが、

昨今では、例えば、クローン病や潰瘍性大腸炎、憩室炎など、さまざまな腸の炎症性疾患に対して、さらには子宮内膜炎などへの応用が試みられています。

大黄牡丹皮湯の副作用・注意点

体力の低下している人、虚弱な人、下痢しやすい人、冷えの強い人には使えません。

服用中に下痢をした場合は中止してください。

子宮収縮作用により流産のおそれがあると考えられるので妊婦さんは使用を避けてください。(※腸癰湯も同様に、妊婦さんの使用は避けてください)


今も虫垂炎の初期のときに大黄牡丹皮湯が使われることはあるのかもしれませんが、化膿している場合は、現代では通常、抗生物質が優先されます。症状がひどくなれば手術(腹腔鏡または開腹)が必要になります。急性虫垂炎を疑うときは、お腹が痛いのをガマンしながらとりあえず大黄牡丹皮湯を服用して様子をみよう、とは絶対に考えずに、すぐに病院を受診してください。

  • 用法用量や使用上の注意は、医師・薬剤師の指示、または添付文書の説明を守ってください。

 

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