加味逍遙散と抑肝散加陳皮半夏の違い
加味逍遙散(かみしょうようさん)と抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)。
両方とも、精神不安、いらいら、不眠には使われる漢方薬で、
よく比較されます。
加味逍遥散は、逍遥散(しょうようさん)に牡丹皮と山梔子を加えたもの。
抑肝散加陳皮半夏は、抑肝散(よくかんさん)に陳皮と半夏を加えたもの。
どちらも2つ生薬が足されていますが、
それらを除いた、逍遙散(しょうようさん)と、抑肝散(よくかんさん)を比べてみます。
そうすると、
逍遙散 = 柴胡・当帰・白朮・茯苓・甘草・芍薬・薄荷・生姜
抑肝散 = 柴胡・当帰・白朮・茯苓・甘草・川芎・釣藤鈎
ですので、
配合されている生薬からして、かなり似ていることが分かります。
陰と陽
何かに取り組み成功する人は、情熱と冷静さを持ち合わせている。
やる気はあって気持ちは燃えていても、頭ではクールに判断する必要があります。
東洋医学では、よく「陰」と「陽」という理論を用いますが、
対立関係にあるものでも、お互いに依存し合ってうまくバランスをとっています。
1日に昼と夜があるように、1年に夏と冬があるように、
「陰」と「陽」は両方大事で、どちらかに傾きすぎるとよくありません。
アクセルとブレーキが両方あるから車は安全に進むことができますし、
火薬を燃やすための火と、それを消すための水を備えて初めて、安全に花火が楽しめます。
「陽」を抑える役目を「陰」が担います。
もし「陰」が弱くなったとしたら、「陽」は制御が効かなくなり暴走します。
多少のストレスなどは気にせず冷静に頑張ろうという気持ちでいたのに、いつのまにかイライラ感が支配していることがあります。
ストレスというのが「陰」を消耗させています。
それで抑えが効かなくなった「陽」がイライラです。
この状態を漢方薬で治そうとすれば
ストレスに対応する生薬
陽を抑える生薬
陰を補う生薬
などを使えばいいということになります。
そして遅かれ早かれ、ストレスを受け続けていると、食欲不振や吐き気、便通の乱れなど、消化器の働き(脾)に影響がでますので
あらかじめ脾を補う生薬も加えられます。
抑肝散(加陳皮半夏)で言えば、
ストレスに対応する生薬・・・柴胡
陽を抑える生薬・・・釣藤鈎
陰を補う生薬・・・当帰・川芎
脾を補う生薬・・・白朮・茯苓・甘草(・陳皮・半夏)
(加味)逍遥散で言えば、
ストレスに対応する生薬・・・柴胡
陽を抑える生薬・・・薄荷(・牡丹皮・山梔子)
陰を補う生薬・・・当帰・芍薬
脾を補う生薬・・・白朮・茯苓・甘草・生姜
という構成になっていて、はやり構成からみてもよく似ています。
そこで、加味逍遙散と抑肝散加陳皮半夏の違いを明確にするには
やはり生薬の違いを考えていかなければいけません。
抑肝散(加陳皮半夏)の特徴
抑肝散の特徴は、釣藤鈎(ちょうとうこう)と川芎(せんきゅう)です。
釣藤鈎は、鎮静作用がある生薬です。
抑制がなくなって暴走してしまう症状を抑える役目があります。
- 怒りでプルプル震えてしまう
- キレてしまう
- 貧乏ゆすりをしてしまう
- 歯ぎしりをしてしまう
- 小児では夜泣きを起こしてしまう
- 認知症の方では暴言や暴力が飛び出してしまう
そのように神経が高ぶって苛立ちが表れている症状に使える処方になります。
川芎は、血を巡らせます。釣藤鈎は血管拡張作用があるのでこの二つで血流が改善します。
釣藤鈎は冷やす生薬ですが、処方全体としては体を温めていきます。
(加味)逍遙散の特徴
加味逍遙散には、薄荷(はっか)・牡丹皮(ぼたんぴ)・山梔子(さんしし)が配合されます。
薄荷はミントです。メントールはスースーと清涼感がします。
アロマなどでも使われますが、気鬱を解きます。
牡丹皮・山梔子も、熱を冷やす生薬です。
逍遙散には、川芎ではなく芍薬が配合されており、
当帰+芍薬という、陰を補う作用が重視されています。
よって逍遙散は抑肝散に比べるとクールダウンによって怒りを抑えるイメージが強くなります。
そうめんを茹でるとき、吹きこぼれないようにする方法
吹きこぼれる状態がイライラだとします。
火力(ストレス)は弱めることができないとして、吹きこぼれないようにする方法は?
1.発生する小さな気泡を潰してあげる方法
2.水を入れたりしてお湯の温度をさげる方法
二通り考えられると思いますが、
1が抑肝散で、2が加味逍遙散、というような違いなのかもしれません。
イライラの特徴
また時々、イライラの特徴によって、抑肝散タイプか、加味逍遙散タイプかを判断できると耳にすることがあります。
あくまでも参考程度ですが・・・
抑肝散タイプ
- 怒りをストレスの対象に直接的にぶつけることが多い
- イライラしているのが見た目でもよく分かる
- 自分自身の気に入らないところにもイライラしている
- やろうと思っていたのにできなかった、今まで出来ていたことが出来なくなりイライラする
- 気持ちが高ぶって、目が冴えて寝付けない
加味逍遥散タイプ
- 自分のイライラは、周りの人や環境のせいだと思っていることが多い
- ネチネチと遠回しな愚痴を言うことが多い
- イライラを察してあげなければいけない
- どうして自分の気持ちを分かってくれないのかと悶々とした気持ちを溜めこんでいる
- 眠ったあとも夢の中でまでイライラして熟眠感がない
喜怒哀楽
おまけの話。
喜:思い描いていた夢が叶ったときはやはりまず喜びが沸きます。
怒:しかしその状況に慣れてきてしまえば、徐々にダメな部分に気付きはじめ、怒りが出てきます。
哀:何とかしようと思いますが、それがどうしようもないことだと悟り、哀しくなります。
楽:だけどこのままでは終わりません。そこを乗り切ることで必ず最後は楽しいことが待っています。
それが喜怒哀楽。
関連コンテンツ
スポンサーリンク
Pingback: 育児のイライラを漢方薬で解決する
はじめまして、こんにちは。
毎回、漢方薬についての分かりやすい解説を拝読させていただいております。
PMSのため病院から抑肝散と加味逍遙散の両方が出されていて一緒に飲んでいるのですが、ブログを拝読して、2つの細かな違いが分かり助かりました。
とても似ている処方だけれど、クールダウンでイライラを鎮めるのと、神経の高ぶりを抑えてイライラを抑える、二つの異なる働きがあるのですね!
同じような漢方を重ねて飲んでいていいのだろうか?と不安だったことがスッキリいたしました。
ありがとうございました。
もふもふ様、こんにちは。
わざわざお礼のコメントを入れて頂きありがとうございます。
不安が解消されたようでよかったです。