適応症の話

医療用エキス製剤の「効能又は効果」をみていると、

例えば、「大柴胡湯」(だいさいことう)では・・・

⇒『比較的体力のある人で、便秘がちで、上腹部が張って苦しく、耳鳴り、肩こりなど伴うものの次の諸症。 胆石症、胆のう炎、黄疸、肝機能障害、高血圧症、脳溢血、じんましん、胃酸過多症、急性胃腸カタル、悪心、嘔吐、食欲不振、痔疾、糖尿病、ノイローゼ、不眠症。』

いったい何によく効く薬なのか非常に分かりづらい薬です。

 

例えば、婦人科の薬として有名な「当帰芍薬散」(とうきしゃくやくさん)でさえ・・・

⇒『筋肉が一体に軟弱で疲労しやすく、腰脚の冷えやすいものの次の諸症。 貧血、倦怠感、更年期障害(頭重、頭痛、めまい、肩こり等)、月経不順、月経困難、不妊症、動悸、慢性腎炎、妊娠中の諸病(浮腫、習慣性流産、痔、腹痛)、脚気、半身不随、心臓弁膜症。』

適応外では嗅覚障害に使われる例などもあって、

薬局で処方せんを受け付ける立場からすると、

症状をうかがうまでは、どのような目的で処方されたか色々推測しなければいけない薬です。

 

痛みに使う漢方薬に限定して、例えば「疎経活血湯」(そけいかっけつとう)・・・

⇒『関節痛、神経痛、腰痛、筋肉痛。』

確かにどこかの痛みに使う漢方薬ということは分かりますが、

疎経活血湯を飲んでいるというだけでは、どこが痛いのかは分かりません。

 

では、「二朮湯」(にじゅつとう)はどうかというと・・・

⇒『五十肩』

とても分かりやすい!

 

 

二朮湯とは

では、なぜ「二朮湯」の適応が五十肩なのか?

効能書きはシンプルに書かれていますが、構成している生薬は少し多くて複雑です。

構成生薬は、

半夏・蒼朮・威霊仙・黄芩・香附子・陳皮・白朮・天南星・羗活・茯苓・甘草・生姜

(※エキス剤では羗活の代わりに和羗活が使われています。)

 

整理して並び替えます。

①蒼朮・白朮+②(半夏・陳皮・茯苓・甘草・生姜)+③(威霊仙・羗活・香附子・天南星)+④黄芩

 

まず、名前に「二朮」と表れているように

①蒼朮と白朮。

だいたいどちらかだけを使うのが一般的な「朮」が、2つとも使用されているのが特徴です。

蒼朮と白朮の違いはここでは割愛しますが、ともに「湿」を解消する薬物です。

「湿」を簡単にいうと、体内の「水」が病的なものに変化したものです。

これが関節にあると、関節痛という症状になります。

肩こり=肩の筋肉疲労、筋肉痛
五十肩=肩関節の炎症

とすれば、二朮湯の適応症は、肩こり、筋肉痛よりも、五十肩に適していると考えられます。

逆に肩こりに使われる「葛根湯」(かっこんとう)が五十肩に使われないのは、「湿」を除く作用で劣るからです。

 

②の半夏・陳皮・茯苓・甘草・生姜の部分は「二陳湯」(にちんとう)です。

気管支炎や、悪心や嘔吐、食欲不振などの胃の症状に応用されることが多いですが、

漢方的には痰飲(体内に停滞している異常な「水」)を取り除くための方剤です。

一見、肩の痛みには関係なさそうに思えますが、

痰飲の発生の源である消化器を治すことによって、湿邪による痛みの発生を抑えようとしています。

つまり、急性の痛みだけではなく、慢性化した症状への配慮ということになります。

五十肩のように慢性的に経過する症状に適しています。

 

二陳湯に、朮があって、あと、もし人参と大棗が加わると「六君子湯」(りっくんしとう)になるのですが、

人参と大棗には潤す作用があるので、湿を乾かそうとしている作用には反してしまいますので加えられません。

 

③(威霊仙・羗活・香附子・天南星)

これらは鎮痛効果が期待される生薬です。

威霊仙・羗活は、経絡の湿を乾かし、

香附子・天南星は、上半身の湿を乾かす、と考えられています。

やはり上半身の症状に対して効果が出るように意識されて作られた方剤のようです。

香附子には理気作用もあります。

 

④黄芩

炎症を抑え、熱を冷やす、腫れを軽減する効果があります。

また、燥性の生薬が多く配合されるので、乾かし過ぎてしまうことよる熱の発生を抑える効果も期待されているようです。

 

以上で「二朮湯」が、五十肩に効果あることが納得できますでしょうか。

ただし、大事な点は「湿」の存在であり

「湿」(水または炎症による浮腫)が関係する痛みということであれば、肩だけに限定することもなさそうです。

 

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