安中散(あんちゅうさん):ACS

中(お腹)を安(案)ずる、お腹の痛みを安らかにする、という意味があります。

配合されるほとんどの生薬がお腹を温める作用をもち、

かつほとんどの生薬が鎮痛のはたらきをします。

よって主に、冷えによる腹痛(または生理痛)に対して用いられています。

お腹を冷やしたか、または冷たいものの飲食で起こった腹部の痛みです。

牡蛎には制酸(胃酸を中和する)作用があるので、胃酸過多や胸焼けにも有効とされていますが、

エキス剤においては、制酸(胃酸の中和)作用という点では(本来の生薬を粉末にして飲む本来の飲み方に比べると)劣ってしまうと考えられています。

「胃腸薬」として売られている市販薬のなかに、この安中散が使われているものがいくつかあります。

安中散の出典

和剤局方(12世紀)・勿誤薬室方函口訣(19世紀)

安中散を構成する生薬

  • 桂枝(ケイシ)または桂皮(ケイヒ)
  • 高良姜(コウリョウキョウ)または良姜
  • 小茴香(ショウウイキョウ)または茴香
  • 延胡索(エンゴサク)
  • 縮砂(シュクシャ)
  • 甘草(カンゾウ)
  • 牡蛎(ボレイ)

※『和剤局方』では乾姜が含まれており、縮砂が配合されていません
※OTC(市販薬)には茯苓が加えられているものがあります(⇒安中散加茯苓)

 

甘草と牡蛎以外はすべてお腹を温める生薬です。

安中散は、人参湯など『傷寒論』の方剤からすると、だいぶ後世になって出てきた方剤にはなりますが、

お腹が冷えたり、下半身が冷えたり、または冷たいものを食べたり飲んだりして、腹痛などの症状が起こった時の方剤になります。

この点は人参湯などと共通です。

 

安中散の構成生薬の一番の特徴は、

すべての生薬が「止痛」にはたらくものであることです。

よって安中散は、「冷えること」とそれによって「痛む」場合に有効な方剤なのです。

 

縮砂・茴香・良姜・桂枝は、芳香性健胃薬となります。

牡蛎は、胃酸の中和作用があります。胸やけや吐物に酸味があるときに使えます。

延胡索は鎮痛作用が強い生薬で、全身の疼痛に使えます。

良姜は、乾姜に比べ、お腹を温める作用は弱いけど鎮痛作用は強い、というものです。

空腹時の胃の痛み・胸やけに対してよく用いられることが分かります。

安中散の効能・適応症状

胃が冷えたことによる胃痛、腹痛(腹部膨満感、悪心、嘔吐、胸やけ、げっぷ、呑酸などを伴う)

神経性胃炎、慢性胃炎、胃アトニー、胃酸過多、胃痙攣、慢性膵炎

月経痛、月経困難症、更年期障害

  • 保険適応外の症状を含みます。
  • 上記の症状に応用が可能という意味であり、すべての症状が安中散で治せる、ということではありません。

安中散の使用のポイント

空腹時の胃痛、胸やけ、胃酸が上がってきて酸っぱい、などのときに用います。

効能書きには「やせ型で・・・」と書かれているものが多いですが、痩せているか太っているかはそれほど重要ではなく、お腹が冷えているのかどうかの方が大事です。

お腹が冷えると痛み、温めると痛みが和らぐ、という場合に有効です。

冷えて痛むわけですから、当然、冷たい食べ物飲み物を摂りすぎないように注意してください。

冷えが無く、ただ単に胃痛や胸焼けがあるだけなら、近年においては、H2ブロッカーやプロトンポンプ阻害剤(PPI)の方が確実的かもしれません。またはそれらと併用することもあり得るかもしれません。

安中散のもう一つの使い方

腹部を温め、血行を改善し、平滑筋の緊張やけいれんによる腹部の痛みに効果のある「安中散」は

女性では生理痛(月経痛)にも使えます。

やはり、お腹の冷えがあり、あたためると痛みが和らぐ、というときに適します。

胃痛と生理痛と両方ある人にとっては、持っておくと一石二鳥となり得ます。

安中散の副作用・注意点

上記の縮砂・茴香・良姜・桂枝の芳香性健胃薬のはたらきで、消化管の動きを良くして、食欲を出させるとともに、

蠕動運動を正常化して膨満感や、吐き気を抑える、という胃腸薬の機能を満たしています。

が、もともとが脾気虚(胃弱)で、食欲不振で疲れやすいような方には不十分です。

長期的に処方されることはあっても、気虚や陽虚(胃腸が弱い、食欲がない、疲れやすい、冷えやすい、寒がり)といった体質を改善する目的では用いられません。

胃腸の働きを補う作用は弱いので、慢性的に胃弱で食欲不振のある場合は、六君子湯(りっくんしとう)なりの補気薬が必要です。

冷えを伴わない、慢性的な腹痛にも他の方剤が必要です。

冷えによる下痢にも対応していません。

 

冷たいものを飲み過ぎ、急に胃が冷えたことによる痛みには有効ですが、お酒の飲み過ぎ、暴飲暴食、二日酔いによる胃痛や胸焼けにはあまり使いません。

安中散は温める薬なので、胃に熱を持って痛むときには使えないのです。

だから胃潰瘍、十二指腸潰瘍、急性の胃炎などで、熱性で炎症が強い場合は、不適です。

不適というだけでなく、潰瘍などの強い炎症によって起こっている胃痛には逆効果になることがあります。

例えば口内炎ができやすい人には適さない可能性があります。

  • 用法用量や使用上の注意は、医師・薬剤師の指示、または添付文書の説明を守ってください。

牡蛎の制酸作用について

牡蛎(ボレイ)は、牡蛎(かき)の貝殻を利用した生薬です。胃酸の中和作用が期待できます。

制酸作用を示す根拠は、その主成分である炭酸カルシウムであろうと考えられています。

確かに炭酸カルシウムは、制酸剤として胃腸薬に使われています。

しかし、炭酸カルシウムは通常の水にほとんど溶けません。煎じた液の方(エキス)に抽出するのは難しいです。

安中散というのは、~散という名前が付いていることから、本来は生薬を粉末状にしてそのまま服用する薬です。

エキス製剤で服用する場合、制酸作用という点だけは、本来の「安中散」から比べると、どうしても劣ってしまいます。

 

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